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海外生活

米軍家族が医療保険を使うには:アメリカの保険ってどうなっているの?

このブログを訪れてくださった方の中には米軍関係者とご結婚されて、アメリカで生活を始めた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

初めて経験する米軍の福利厚生制度、さらに初めてのアメリカ生活です。日本のシステムとの違いに戸惑い、どうしていいのかわからないことがいろいろと出てきます。その中でも、とても混乱して怒りを覚え、日本を恋しく思うのは病気になった時ではないでしょうか。

というのも、そもそもアメリカは医療費が高いし、医療保険制度が複雑でよくわけがわからないから

米軍の現役軍人、退役軍人、そしてその家族は政府が準備してくれた医療保険に加入し、その恩恵を受けることができるようになっています。でもアメリカ生活初心者だった私は、その医療保険の使い方がよくわからず混乱しました。

というのも、そもそもアメリカの医療保険の仕組みの基礎知識を知らなかったから

ということで、このブログでは、まずはアメリカの医療保険制度の基礎知識を簡単にご紹介し、さらにアメリカの軍人用に用意された保険「トライケア」についてもご説明したいと思います。

さらに少しでも私の実経験から情報をシェアできればと思い、これまでの保険会社とのいろいろなやりとりから学んだことも合わせてご紹介しています。

PPO/HMOってなに?ーまずはアメリカの2つの医療保険システムから

まず細かい話に入る前に最初にアメリカの医療保険の根本的な考え方「PPO」と「HMO」について説明させてください

HMO(Health Maintenance Organization)

あえて無理やり訳すると「健康を維持するための医療保険サービス」でその名の通り、病気の予防に主観が置かれています。

このHMOの大きな特徴は主治医(Primary Care Physician: PCP)を決めること

この主治医、専門医ではなく感覚的には日本の近所にある小さなクリニックで何でもみてくれるお医者さんの感じです。

救急車を呼ぶような緊急事態ではない限りHMO型の医療保険に入っていると、まずどのような病気でもこの主治医の先生にみてもらって、その後この先生が必要と認めて初めて専門医にみてもらうことができます。

この主治医の判断で必要な専門医に「紹介」してもらうことを「リファラル(Referral)」と言うのですが、これがなければ通常、医療保険を使って次の専門医の段階へ進むことはできません。

なのでこのHMO型の保険ではまずは主治医を決めて、主治医に診てもらうことになります。

さて主治医の先生に診てもらって「リファラル」も無事にもらいました。早速、近所の専門医へ出かけたいところなのですが、ちょっと待ってください。

アメリカの医療保険で一番大切なのは、出かける専門医がご自身の医療保険のネットワークに加盟しているかどうか

ネットワークに加盟していない専門医にかかると医療保険が使えなくて恐ろしく高額な医療費を支払うことになってしまうかもしれないのでご注意を。

PPO(Preferred Provider Organization)

さあ、次はPPOです。これまたあえて無理やり訳すと「より好ましい医療提供者を利用するための医療保険サービス」ということになるでしょうか。

HMOとの根本的な違いは主治医を決める必要がなく、なので「リファラル」が必要ないこと

なので直接専門医へ出かけることができます。しかしここでも大切なのは、ご自身が加入されている保険会社のネットワークに参加している専門医を選ぶこと。

保険会社のウェブサイトに入ると保険が利用できるお医者さんの一覧が出てくるので、そこから選ぶことになるかと思います。

そして自分が加入している保険のネットワークに参加しているお医者さんや病院なら、専門医であっても自由に選んでそこへ出かけて診てもらえるということです。

ではPPOの方がいいんじゃないのと思われるかもしれませんが

このPPOの弱点は保険料がHMOよりも割高になってしまうこと

なのでご自身やご家族の健康状態や必要性を考えて、ご都合のいいものを選ばれるといいかと思います。

アメリカの軍人が利用する健康保険:トライケア

さてこの「HMO」と「PPO」の基礎知識を元に私が利用している保険のお話をしたいのですが、私の夫は元アメリカ軍人、今は退役軍人です。なのでアメリカの軍人用に用意された医療保険に加入しています。

これまで説明したHMOとPPOの違いを心に止めて、米軍の医療保険をもう少し具体的に紹介したいと思います。

Tricare Prime

アメリカ軍が利用している健康保険はトライケア(Tricare)と呼ばれるのですがこの中で一般的なHMOタイプの保険がトライケア・プライムと呼ばれています。

アメリカで生活をする現役軍人は全てこのプランを利用する必要があります。

一年間の保険料は全くかからず、また医療機関の診察にも基本的には料金はかかりません

またこのプランを利用する現役軍人の家族も同様です。

ただ基本的には軍の医療施設で診てもらわないといけないという制限があり、その医療機関のお医者さんが主治医となります。

ワシントン首都圏ではメリーランド州のベセスダにWalter Reed National Military Medical Centerという大きな病院があり、またバージニア州側にはFort Belvoir Community Hospital という病院もあります。

どちらも敷地内に入るのに軍のIDカードを見せる必要がありますが、設備もしっかりした大病院です。さらにワシントン首都圏には中規模サイズの軍の医療施設もいくつかあります。

どの軍の医療施設に主治医を置くのかは、ご自宅からの距離や車を運転するかどうかによっても変わってくると思います。個人的にはWalter Reedのような大病院に主治医をおくと、なかなか予約が取れなくて大変なように感じていました。

というのも私はこの大病院に主治医をおく前はFairfax Health Centerというバージニア州にある中規模のこじんまりとした病院に主治医をおいていました。その時のタイミングもあるのかもしれませんが、こちらの方が少し早く予約が取れるように感じたので。

ただこのような中規模の病院に主治医をおくと、マンモグラフィといった少し大がかりな検査ではやっぱりワシントン首都圏の他の大病院に出かけることになるのでご注意ください。

さて、現役軍人とその家族は軍の施設を利用するかぎり全て無料ですが、軍を引退すると少し状況が変わります。

引退をして現役軍人から退役軍人になると、保険料を支払わないといけなくなるよ

現在、家族プランで一年の保険料を594ドル(約6万5千円)くらいかかります。

さらにネットワークに参加しているお医者さんにかかると、1回の診療で一般医で20ドル(約2200円)、専門医で30ドル(約3300円)をクリニックで自分で支払わないといけません。また入院すると入院費として154ドル(約1万7千円)かかります。それ以上の費用は基本的には保険でカバーされるというシステムです。

さらに退役軍人の場合、特定の地域では「US Family Health Plan」という特別な対応を受けることができて、これはトライケア・プライムの条件よりほんの少し好条件で軍の医療機関ではなく一般の医療機関で診てもらうことができます。

例えば私の住むワシントンDCやメリーランド州ではJohn Hopkins Medicine というジョン・ホプキンス大学が提供する医療ネットワークに加入することができます。

ちなみに現役軍人本人は無理ですが、現役軍人の家族は希望すれば「US Family Health Plan」を利用することができます

Tricare Select

このトライケア・セレクトはトライケアのPPOタイプの保険で現役軍人は利用できませんが、現役軍人の家族、そして退役軍人とその家族が利用することができます。

一年に594ドルを支払わないといけないトライケア・プライムと異なり一年間の保険料は全くかかりません

けれど、この保険にはプライムにはなかった「deductibles(年間自己負担額)」というものがあります

この年間自己負担額、家族プランで300ドル、ということは一年で約3万3千円、自分のポケットから支払ったあとで初めて保険のシステムが起動するということになります。

またこの年間自己負担額を越えたあとはネットワークに参加しているお医者さんにかかると1回の診療で一般医で29ドル(約3200円)、専門医で41ドル(約4500円)自分で支払わないといけません。

ということは一回の診察にかかる費用が「プライム」よりも高額になるということです。

さらに入院をすると1日に250ドル(約2万7千円)、もしくは請求額の20〜25パーセントを支払う必要があります。

ただしこの「セレクト」はPPOタイプの保険なので主治医を決めなくてもいいしリファラルも必要ではないので「プライム」より簡単に専門医にかかることができます。

トライケアーHMOとPPOの違い

ということでアメリカ軍の保険トライケアのHMOとPPOをざっくりと比較してみましょう。

  • HMOは主治医を決め、主治医の紹介をもらって専門医に診てもらう。
  • PPOはネットワークに加盟している病院や先生から自由に選べる。
  • PPOは年間の保険料がかからないが年間自己負担額がある。
  • HMOは年間の保険料は支払わないといけないが年間自己負担額はない。
  • 一回の診療や入院でかかる費用はHMOに比べてPPOの方が高くなることが多い。


もちろんこれはトライケアのネットワークに参加している病院にかかる場合についての大まかな話です。なのでトライケアのネットワークに参加していない病院で診てもらう場合などにはさらにここには書いていないとても細かい決まりがあることをご了承ください。

またトライケアは細かい情報をウェブでみることができるので最新の細かい情報が必要な方はウェブでご確認くださいね。

トライケアを使った私のリファラル経験

さて、最後に私たち夫婦、これまでトライケアを使っていろいろな治療を受けています。アメリカ軍で働いているご家族がいらっしゃる方のご参考になればとも思うので、いくつか経験談を挙げてみたいと思います。

夫が現役軍人で夫婦でトライケア・プライムを使っていた時代

子どもが欲しかったので専門医にかかりたかった私。トライケア・プライムはHMO、ということでまずはアメリカ軍の病院に予約を入れました。

ここで決められた主治医に診てもらいましたが、診てもらったと言うよりは話を聞いてもらって、「リファラルを出しておくので2〜3日後にここへ電話して」と電話番号をもらいました。

今考えてみるとトライケアの事務所の電話番号だと思います。この軍の医療機関ではビタミン剤も一緒にもらいましたが全く支払いをする必要はありませんでした。

後日、もらった電話番号に電話をしてみると「決定事項を郵送しますので受け取ってください」と言われました。

その後、手紙が届き「この専門医へ行ってください」と医療機関の名前が一つ書かれていました。もしセカンドオピニオンのために別の病院にかかりたいなら改めて別の手続きが必要なようでした。

その後、指定された専門医へ出かけましたが、診察費は全く支払う必要はありませんでしたが、その後の高度治療は保険が効かなかったので全額自費で払いました(あまりの高額に目が飛び出ました)。

ただ、薬代に関しては、病院からは「保険効きませんよ」と言われていたのだけれど、ダメ元でトライケアに提出してみると全てカバーされました

病院の言うことをそのまま鵜呑みにしてはいけないというのはこの経験で学びました。

途上国赴任中にトライケア・オーバーシーを使っていた時期

今回はHMOとPPOに焦点を当てていたのでトライケア・プライムとトライケア・セレクトしか説明しませんでしたが、トライケアにはそれ以外にもいろいろな種類があります。

海外に赴任する現役軍人と夫の任務命令書に記載のある家族はトライケア・プライム・オーバーシーを利用することができます。

途上国で耳の調子がおかしくなり専門医にかかる必要ができた私、しかしその途上国にはアメリカ軍の病院がなかったので現地の同僚に相談して評判のいい耳鼻咽喉科を探しました。

そしてその病院に診察に出かける前にトライケアの事務所に「この病院で診てもらいたいのですが」と連絡をすると、その病院をトライケアのネットワークの病院として認定してくれました。

認定されたことを確認した後、病院で診察を受け、かかった診察費を自分で支払いました。

その後、領収書をトライケアに送ると全額返金してくれたよ

しかし地元の病院では「問題ない」と言われたのですが症状がひどくなり再度トライケアに相談をしたら、私の途上国ではきっちりと診断できる病院がないという判断で、アメリカの軍の病院で診察を受けることになり、診察代のみならずそれにかかる飛行機やホテル代も全て支払ってくれました

ちなみに夫が歯が悪くてインプラントをしないといけなかった時も、治療費のみならずアメリカで治療をするための滞在費も全てトライケアが出してくれました。もちろん、これは住んでいた途上国の医療が求める水準に達していないという状況だったからだと思います。

夫が退役軍人となりプライムの「US Family Health Plan」に加入した場合

夫が退役軍人になった機会にUS Family Health Planに加入したのでJohn Hopkins Medicineの民間の病院ネットワークを使うことになりました。

なので、軍の病院は利用できなくなりました

代わりにJohn Hopkins Medicineのネットワークの中で家に近いクリニックを選び、そこの先生が主治医となりました。

このクリニックでの最初の健康診断は4ヶ月待ちというすごいものでしたが、五十肩で診察を受けたかった時には、予約のコールセンターの担当に症状を説明すると、主治医のいるクリニックのアシスタントさんから折り返し電話がかかってきました。再び、症状の説明を繰り返すと「緊急扱い」にしてくれて二日後には診察を受けることができました

夫の「高血圧」で薬の処方箋が欲しいときも同じ手続きでやはり「緊急扱い」になりすぐに診察してくれたので、おそらく何らかの症状があると、そしてそれをアシスタントさんにきちんと説明すると近い日時の予約に入れてもらえるようです。

さて、まずはこの主治医の先生を訪れて五十肩という診断をしてもらい、この先生からリファラルを出してもらって専門医(理学療法士)に診てもらうことになりました。このかかりつけのクリニックでは理学療法士に提出するリファラルの用紙と一緒にこのクリニックがオススメする理学療法士の一覧ももらいました。

でも、そのリストに並ぶ病院の全てが自分の使っている保険会社のネットワークに加入しているとは限らないのでご注意を
なので、保険会社のウェブサイトで確認して、その中でネットワークに加盟している病院を予約をするのがいいよ

そして主治医の先生に20ドル、専門医の先生に30ドル、訪問ごとに支払うことになります。

ちなみに私たち夫婦はこのUS Family Health Planに加えて、高額の歯医者さんとコンタクトレンズ関係などの眼科のために、このトライケアに加えて歯科と眼科の保険をそれぞれ別に購入しています。

さて長々と書いてきましたがアメリカの医療保険は本当にややこしいですし情報もコロコロ変わります。もちろん直接、保険会社のウェブサイトで情報収集するのも大切ですが、周りの友人や同僚のみなさんの経験談も参考にされるのもいいと思います。

さらに米軍関係者の方は、現役軍人の方には選択肢がありませんが、ご家族は「トライケア・プライム」以外の選択肢もあります。ご自身の家族構成や病歴なども考えてご家族に合ったものを見つけるのも大切ではないでしょうか。

というのも、私たち夫婦に高額医療が必要だった時にもっときっちりと保険を調べたりトライケアと話し合ったりしたら、もっとうまいやり方があったのではないかと後悔もあります。

みなさまもご自身やご家族の現在の、そして将来の健康状態などを考えて、あなたの家族に最適なものが見つかり、そしてうまく利用できるようお祈りしています。